台湾の「変な日本語」の考察

 

石川玲渚

福井和樺

 

1.はじめに

 インターネット上で台湾の街中で見かける日本語がしばしば「変な日本語」として取り上げられている。特に「の」を好んで使用されることが述べられている記事が少なくない。

 そこで、現地でこうした日本語話者にとっては「誤用」に思えてしまう「変な日本語」について詳しく述べ、台湾における日本語の在り方について考察することにした。

 

2.「の」 

 台湾人にひらがなの「の」は非常に人気なようで日本語でいう「の」にあたる助詞として、中国語では「的」や「之」が使われる。『訪日ラボ』によれば*1、「の」は一画で書けるのに対し、「的」は8画、「之」は3画であり画数の少なさ、そして見た目の可愛さから多くの台湾人に好まれているようだ。 

 調査により、「の」が用いられる事例が合計103例中64例もの数がスーパーマーケットや食料品店にあり、さらに半数以上がお菓子売り場の商品名で使われていることがわかった。また、以下の4つのカテゴリーに分類してみた。 

 

A.中国語と中国語の間に「の」が使われているケース 

(例)「春暖の購物金」、「關山の便當」 

 

B.文法面でも誤りが見られなかったケース 

(例)「鍋の名物」、「職人の味」、「米の菓子」 

 

C.活用に問題が感じられるケース 

(例)「一番安いの店」、「不敏感の刃歯美白」 

 

D.「の」で終わるケース 

(例)「あこがれの」、「恥知らずの」、「麗の」 

 

 

 

 まずAのケースは、特に街中の看板や商品名などで多く見受けられる。「の」以外は全て中国語で用いられていたり、少し不自然な日本語で書かれてあったりなどさまざまである。 

 また今回Aで例に挙げたものの場合、「春暖の購物金」は「春のショッピング」、「關山の便當」は「関山の弁当」の意味であり、「の」が入っていることでおかしい文章になっているというわけではない。 

 他に、「栗の郷」、「純の乳」、「御の味」などといった漢字一文字と漢字一文字の間に「の」を入れるという構成が15例ほどあった。真ん中に置くことでより人々の目に止まるようにされているのかもしれない。さらには、「日本」、「日式」の文字の後に「の」が書かれている看板や商品も多く存在し、日本のものであることが強調されている(画像1)。 

 

画像1

 

 続いてBのケースでは、一見日本にありそうなキャッチフレーズや言葉が多いが、商品の裏に書いてある産地を見てみるとどれも台湾であった。「鍋の名物」や「職人の味」は商品説明に、また「米の菓子」は商品名にそれぞれ書かれていた。 

 次にCのケースでは「一番安いの店」、「不敏感の刃歯美白」(画像2)の2例を挙げる。1例目は「安いの店」より「安い店」というように「の」を省いた方が適切だ。また2例目の「不敏感の刃歯美白」は、そもそも理解が容易ではないものではあるが、それでもやはり「敏感」を形容動詞と捉える場合「不敏感な歯ブラシホワイトニング」とするのが普通であろう。この2例はどちらも「的」と「の」が単純に互換可能だと考えている人が多いのではと考えられる。しかし「我的」と「幸福的家庭」を例に挙げると「我的」は「私の本」、「幸福的家庭」は「幸せな家庭」という日本語が適切であり、必ずしも「的」は「の」と訳されるわけではない。 

 

画像2

 

 さらにDのケースにおいて、日本では「の」で終わる言葉は見かけないが、これらも「的」と「の」の使い方で混同が生じていると思われる。「是他的(この本は彼のものです)」などの例は「的」で文章が終了している。これは「是~的」構文と言い、間にある「他(彼)」を強調する構文であり「的」が最後に付く*2。なお下記ウェブサイトでさまざまな用法が挙げられていたが、どれも今回挙げた例には当てはまらない。   よって、「あこがれの」(画像3)、「恥知らずの」、「麗の」の3例は「の」を付けることで前の言葉を強調させるためかもしくは意味が通るか通らないかに関係なく使用されているのではないかと考えられる。 

 

画像3

 

3.誤字脱字 

 調査では、夜市の看板やメニュー表、スーパーマーケットや食料品店の商品の説明書きに日本語の誤字脱字が多くみられ、その数は両者合わせて69例中41例であった。これらを5つのカテゴリーに分類してみた。 

 

A.類似文字により誤っているケース 

・カタカナ・・・「ツ」、「シ」、「ン」、「ソ」、「リ」、「ク」、「ワ」 

・平仮名・・・「ろ」、「る」、「め」、「ぬ」 

・変換ミスと予想できるもの・・・「リ」、「り」 

(例)エビと卵のチャーハンを「えび卵ちやーはそ」 

・小文字を大文字で表記 

(例)「ビスケツト」、「いつしよ」、「コシヨウ」 

 

B.文字や濁点、半濁点が不足しているケース 

・文字の不足 

(例)「ブラックペパー(ブラックペッパー)」、「マッサー(マッサージ)」、「ピーナッ(ピーナッツ)」 

・濁点の不足 

(例)「きめつのやいは」、「人気ブラント」、「ゆす」 

・半濁点の不足 

(例)「フレミアムケア」 

・濁点と半濁点を混同しているケース 

(例)「バイナツブル」、「てんぶら」、「すばい」 

 

C.記号の表記が混同しているケース 

・長音記号の位置の誤り 

(例)「ケ_キ」 

・横書きのときに“|”を、縦書きのときに“ー”を使用する長音記号の向きの誤り 

(例)「エネルギ|」 

 

D.ふりがなや読み、送り仮名を誤っているケース 

・ふりがなの誤り 

(例)「豚(ひつじ)」 

・日本語としての読みの誤り 

(例)「柚子(ゆうず)」 

・訓読みするべき言葉が音読みされている誤り 

(例)「大判焼き(だいばんやき)」 

・中国語の発音を日本語で表記 

(例)「蚵仔煎(オアジェン)」、「臭豆腐(ちょうとうふ)」 

・送り仮名の誤り 

(例)「細いらかい」 

 

E.その他 

・音が似ている字の誤り 

(例)ニンジンを「リンジン」、チキンを「イキン」 

・意味が伝わらないカタカナ言葉 

(例)「ブラッワホィ_ル」 

 

 まず、Aのケースで代表的なものはカタカナの「ツ」、「シ」、「ン」、「ソ」である。看板に使われる文字は看板を作成する際に字の形が似ていたため、間違えていることに気づいていない場合もある。また、手書きの商品名における間違いは日本語を書き慣れていない台湾人が書いているため、「ソ」が「ン」になっていると想定できる(画像4)。例にあげた「えび卵ちやーはそ」の平仮名をカタカナで書くと「エビ卵チヤーハソ」となる。これは「チャーハン」の「ャ」が大文字に、「ン」が「ソ」と間違えたことで生まれた言葉なのではないかと考えられる。 

 

画像4

 

 次にBのケースで代表的なものは促音の欠落や誤使用である。台湾にはマッサージ店が多くあり、どの店も扉や看板に日本語で料金表が書かれている。これらは正しく「マッサージ」と表記されている店がほとんどだが、なかには「マツージ」、「マツサージ」、「マシサージ」のように文字が不足していたり、Aのケースのように小文字と大文字が間違っているものも見受られる。また、濁点と半濁点が混ざって使われているものも多々ある。 

 続いてCのケースで代表的なものは長音記号の不足や表記の誤りで、この中でも特に多かったものが長音記号の向きの誤りである。画像(5-1、5-2)のように同じ商品でも縦書きと横書きで同じ書き方がされていることから、長音記号をカタカナの一つとして扱っているのではないかと考えられる。 

 

画像5-1

 

画像5-2

 

 Dのケースで例にあげた「豚」を「ひつじ」と記載していたお店にはもうひとつメニュー表があった。そこには正しく「豚(ぶた)」と書かれており、他の商品名も特に間違った日本語はなかった。また、街を歩いていて見つけたお店にはお店の名前を平仮名で書いたのれんが一文字ずつかかっていたが、それらは漢字の読み方とは異なった順番であった。さらに『漢文と東アジア』(金、2010)によると「音読みが、呉音、漢音、唐音のいずれであれ、その起源が中国語の発音にあるのに対して、訓読みはその漢字の日本語の意味で漢字を読むことを指す」という。つまり、例に挙げた「大判焼き」は日本語では訓読みで「おおばんやき」と読むが、中国語では音読みで読むため「だいばんやき」だと思い、誤ったふりがなが書かれたと思われる。さらに読みの正しさとは関係なく、字を一つ一つ調べて出てきた日本語を書いた可能性も考えられる。 

 最後にEのケースであげた、ニンジンを「リンジン」、チキンを「イキン」と語頭が誤って書かれている理由として、その文字の音だけで判断したからではないかと想定できる。「ニ」と「リ」、「チ」と「イ」は同じ母音であり、日本語を聞き慣れていない人からすると間違える可能性はあるといえる*3 

 

4.不自然な日本語 

 最後に夜市の看板で多く見られた不自然な日本語について述べる。これらは日本語話者から見て意味は伝わるが、文章に違和感があるものがいくつかある。こう感じる背景として、日本語と中国語はほぼ同じ漢字を使用しているため、日本語は難しくないと思い込んでいる人が多いからだと考えられる*4 

 調査により、全体116例のうちスーパーマーケットや食料品店に44例、夜市の看板やメニューに33例、土産屋などの店内に24例あった。「の」と誤字脱字に比べて全体の数が多く、比較的どのような場所でもみられる。不自然な日本語に誤字脱字がみられることもあるため一部重複している部分はあるが、以下にて文法の誤りと不完全な文章の2つのカテゴリーに分類できる。 

 

A.文法の誤り 

・助詞の間違いや不足 

(例)「便器に踏まないで下さい」、「人気必ず攻略」 

・活用が誤っている 

(例)「選ぶしてください」、「お名前刻みつける」、「水道管が古いで」 

・尊敬語の使い方が誤っている 

(例)「お使用しており」、「お使います」「置いていただければよろしいです」 

 

B.不完全な文章 

・語順が誤っている 

(例)「品質が安心して」(画像6) 

・言葉が重複しているもの 

(例)「大だい」、「スリッパは滑りやすく、滑りやすいので・・・」 

・意味が伝わらないもの 

(例)「日本に源を発します」、「大きなイカを爆撃する」 

 

画像6

 

 まず、Aの文法に関して中国語には自動詞と他動詞の使い分けがないため*5、これらの区別ができていないことがいえる。例にあげた「便器に踏まないで下さい」は助詞を「に」から「を」へと他動詞にすることで完全な文章にすることができる。また、「水道管が古いで」は日本語の形容詞の連用形と助詞「で」の使い方を理解していないために誤っていると考えられる。 

 次にBの「品質が安心して」は日本では「安心な品質」と書き換えられる。日本で使われる「安心」とは名詞ではそのまま、形容詞は安心な、動詞は安心する、副詞は安心してなどがある。日本語は言葉の後に文字を1つや2つ追加するだけでさまざまな用法で使うことができるため、その簡単さが反対にややこしくさせてしまっているかもしれない。 

 

 

5.まとめ 

 台湾ではスーパーマーケットなどの食料品店、夜市の看板やメニューなど多方面にわたって日本語が使われており、「変な日本語」が多くみられる。それらを「の」、誤字脱字、不自然な日本語の3つの項目に分類し、考察した。台湾で使われている日本語にはさまざまなエラーが見受けられるが、ウェブサイトの『現代台湾における日本語語彙語の受容性』によると*6、「日本語語彙が間違って使われるときも多いが多くの人は読めないので別に気にしない」という。日本語の正誤とは関係なく、そもそも日本が好きで使用している人が多いのはありがたいことである。 

 

 

参考文献 

金文京(2010岩波新書『漢文と東アジア―訓読の文化圏』 

*1:『台湾人に愛されるひらがなの「の」:日常的に使われるのは「かわいくて便利だから」(2019年8月23日)』訪日ラボ編集部『訪日ラボ』2023年5月1日閲覧

*2:中国語「的」の意味は?覚えると便利な20例|発音付(2018年10月29日)』三宅裕之『中国ゼミ』2023年5月1日閲覧

*3:「ニ」は台湾語で「リ」と発音するため、その影響を受けている可能性もある。

*4:

中国人日本語学習者が間違えやすい表現について(2003年10月28日)」王国華『北陸大学 紀要 第27号(2003)』2023年6月20日閲覧

*5:

外国人が混乱する日本語/外国人が間違えやすい日本語の表現は?中国人/韓国人/英語圏の人のアクセント・発音・文法の注意点(2021年4月20日)」トラウマウサギ『日本語教育/幼児教育 覚書 ホーム』2023年6月20日閲覧

*6:

 「現代台湾における日本語語彙語の受容性(2007年)」杜岱玲・新居田純野『台湾大葉大学応用日本語学科』2023年5月1日閲覧