はじめに(担当教員)

そもそも…

 2022年度、愛知大学国際コミュニケーション学部の演習科目「国際フィールドワーク」に台湾コースが加わった。しかも、同科目としてはコロナ禍後初めての開講だったので、ダブルの意味で「初」である。

 夏季の台湾はマンゴーが美味しい。でも、暑さや台風を思うと、とてもフィールドワーク向きとは言えないので、現地滞在の時期は春季休暇中の2月に設定した。その前の2022年度秋学期に調査の準備をし、現地滞在後の2023年度春学期に調査の取りまとめを行うというスケジュールである。

 学生たちは、けっしてあっさりしているとは言い難い授業運営によくついてきてくれたと思う。とくに今年度の調査レポートの作成には辛いものがあったのではないか。頑張ったみんなを労いたい。

 

故宮博物院にて

 

目指したもの

 レポートは、いずれも力作である。執筆時点でウェブ上に見られなかった情報を発信したものであり、その意味ですべてがオリジナリティを備えた報告だ。

 ある文章が「学術論文」であるための最も重要な条件は、公共的な学術知に対してなにか新しい貢献をすることにある。アカデミズムの中で生きる人間はそれを「研究のオリジナリティ」などと呼ぶ。その研究がどの点でどの程度オリジナルなのかは、当然ながら、すでに存在している研究群(先行研究)との比較においてのみ言いうるものだ。

 この、すでに存在している情報を把握し、それとの違いをアピールしつつ、自分のオリジナルな情報を他人様に向けて発信するという作業は、大抵の学生が取り組んだことがない実践であり、早いうちに訓練する必要があるスキルである。

 というのも、参加学生たちがこの後着手する卒業研究にも活かせるし、そればかりか、実社会に出てから新しい商品を作り出す際にも応用できるからだ―――すでにマーケットに存在している商品群を把握し、それとの違いをアピールしつつ、自分のオリジナルな新商品を顧客に提供する、というプロセスと同じなのである。

 学生には、「すでに存在している情報」として、文献ではなくウェブに当たるようにも言った。フィールドワークでは、調査の現場で問いを見出し、先行研究に当たり、ふたたび現場での調査を続け、その問いを練り上げていく、というメビウスの輪のようなプロセスが普通である。けれども、国際フィールドワークの場合2週間現場に居続けるので、文献へのアクセスはできないと考えたほうがいい。輪がつながるように、いつでも閲覧可能なウェブ上の情報を「先行研究」に位置づけたのだ。

 まだ誰もウェブ上で言ってないことを見つけ、それについて調べる。そしてそれを読者にアピールする。学生たちはなかなか要領がつかめず苦労したようであるが、例年の卒業論文の指導を思うと、初めての場合たいていそんなものである。実際にやってみて、慣れるしかないのだ。

 

感謝のことば

 慣れるしかない―――。そういえば、これは秋学期の授業の最初の方で強調したものである。フィールドワークも文章作りも慣れ仕事なのだ。料理やスポーツ、言葉と同じで、やってみてはじめて上達していく。そして、教員は、昔なら軽く「習うより慣れろ」と済ませることができた類いのものを今では言語を用いて教えなくてはならない。手取り足取り、手探りで、だ。教える側も教わる側も、おそろしく骨が折れる作業である。

 しかしながら、だからこそ価値のある営みだとも言える。私は授業をとおして、言葉で説明しにくいものをどうやって表現すべきなのか、学生とのやり取りから多くのことを教えてもらうことができた。この種の暗黙知を私なりに少しは明るみに出せたかもしれない。そう思うと、感謝しかない。

 最後になるが、このプログラムをバックアップしてくれた愛知大学ならびに国際コミュニケーション学部の関係者全員に深く感謝したい。

 私たちのフィールドワークが本学本学部の発展に少しでも寄与できればと思う。


岩田晋典(国際フィールドワーク(台湾)担当教員)

 

1年生のおやつ風景