台北の豆花の現状

 

1.本文

1-1.豆花店を訪問して

 忠孝復興周辺の大安區で9店舗、迪化街周辺の大同區で10店舗の計19店舗を訪れたが、我々が実際に豆花を食べて特徴があったのは3店舗である。まず1店舗目は『騒豆花』である。16時頃に訪れると、昼食の時間も過ぎたからか客は三人ほどいたが店員の女性2人は客の1人と会話をしながら仕事をしていた。店内には机と椅子が多数置かれ、家庭的でありながらも洒落た雰囲気になっていた(画像1、2)。席に着くと、店員から1人1つの注文をするように念を押された。こういったことは、他店では言われることがなかった。店内には入店してから帰るまでK-POPの曲が多く流れており、豆花のトッピングが他の店とは異なり苺やバナナなどであることも踏まえると、伝統的というよりは若者向けの店なのではないかと感じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

画像1:「騒豆花」の店内            画像2:「騒豆花」のメニュー表

 

 2店舗目は『庄頭豆花担』である。『まっぷる台北‘20』によると、一般的に豆花の店で提供される大豆で作る白い豆花のほか、栄養価が高く濃厚な風味の黒豆で作られる黒豆花を提供している(白木.昭文社)。我々が訪れた15時半頃には、店内には男性が一人、客が2名いた。テーブルは少ないが、全て2脚以上の椅子が準備されていた(画像3)。注文に苦戦していると店員が日本語のメニューを出し、用意のできないトッピングについては英語で説明してくれた。日本語以外にも韓国語や英語のメニューがあったことからすると、庄頭豆花担に訪れる外国人も多いのである(画像4)。この店ではトッピング数によって追加料金が発生することはなく、客の注文したトッピング数に合わせて分量を調節して提供していた。

 

       
     
 
 
 
   

 

 

 

 

 

 

 

画像3:「庄頭豆花担」の店内       画像4:「庄頭豆花担」の本語のメニュー表

 

 3店舗目は『純真豆花』である。迪化街の端に位置し、店内には机と椅子はほとんどなかった(画像5)。17時ごろに訪れたが、店員は夫婦らしき女と男の2人で主に女性が盛り付け、男性が会計を行っていた。『庄頭豆花担』と同様に、台湾語だけでなく日本語や英語のメニュー表もあり、注文は英語で対応してくれた(画像6)。我々が食べていると、「Service」と言いながら仙草ゼリーのようなものを出してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

画像5:「純真豆花」の店の様子   画像6:「純真豆花」の台湾語、日本語、英語

のメニュー表

 

 収集したデータを表から分かることを3つ挙げる。1つ目は、トッピング数やその種類によって値段が加算される店が多いということである。訪れた19店舗のうち13店舗がトッピングを追加することができ、店によって値段は異なるものの追加料金が加算される仕組みとなっている。

 2つ目は、私たちがガイドブックでよく目にする豆花は、トッピングを1から自分で選択する「综合豆花」と呼ばれるもので、店の中で最も値段が高いメニューであることが分かる。そして調査結果からも分かるとおり、ガイドブックでは目にすることが難しい原味などの豆花は値段が最も安い。

 3つ目は、原味の豆花を提供している店舗の多さである。我々が訪れた19店舗のうち半分の10店舗が原味の豆花を提供している。ガイドブックには原味の豆花についての情報が少なかったが、食べる機会は意外に多かった。

 

 事前に確認したガイドブック14冊の中で何度も紹介されている店舗が見受けられた。それらは原味の豆花とはかけ離れており、お店独自の工夫を凝らすことによって、ガイドブックで取り上げられていた。ここではまず大安區での2店舗、次に大同區での1店舗を紹介する。

【騒豆花】

豆腐の味をかなり強烈に感じ、芋団子などの伝統的な豆花ではなく、豆腐を少量にする代わりにかき氷を入れ、練乳をかけた果物をトッピングに使用することで豆腐の味がほとんどせず、洋風の甘味のあるスイーツへと進化させていた。したがって、豆花店では珍しく、フルーツを使用して彩りも良くすることが、話題を集めていることが分かった。豆腐が苦手な人でも美味しく食べることができるだけではなく、若者を中心としてSNSに映える写真を載せる人が多い、時代に合わせた工夫をしているのではないかと考えられる (画像3)。なお「騒豆花」では原味豆花は提供されていなかった。

【白水豆花】

この店は、今回の調査で訪れた店の中で最も高級感の溢れる店であった。注文の際にも、客一人につき必ず一つは豆花を注文しなければならないという規則が設けられていた。「るるぶ&more」によると[2]、栄養価の高い豆花を作るため、台湾北東部に位置する宜蘭東部の太平洋の深層水から作成したにがりを凝固剤として使用し、同様にミネラルが大量に含まれる宜蘭の山の湧き水に北米産のオーガニック大豆を用いて、伝統的なにがり豆花を提供している。これらから、健康にこだわる高価な原材料を使っている点が他店とは異なっているため人気を集めて、ガイドブックにも掲載されていることが分かった(画像4)。「白水豆花」はそもそもメニューが粉圓と桃膠の2種類しか存在していないため、原味豆花は提供されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画像3:「騒豆花」の豆花                           画像4:「白水豆花」の豆花

 

次に、大同區での店舗を紹介する。

【冰霖古早味豆花】

地球の歩き方 D10 台湾 2015~2016年版』によると、「豆花は台湾の伝統的なおやつでさっぱりとした味のプルプル豆腐」である。「甘いスープにピーナッツやアズキなどを入れ、混ぜて食べるもの」である(谷口.ダイヤモンド社)という記述がみられる。また、『トラベルデイズ 台湾』によると、「大豆を原料にした豆花という昔ながらのデザート」を提供している。「プリンのような食感で、郷愁を誘う優しい甘さだ」.(.昭文社)という。このように「冰霖古早味豆花」は「騒豆花」と同様に、さまざまなガイドブックに掲載されるほどに編集者からの注目を集めている店となっていることが分かった。調査結果からも分かる通り、「冰霖古早味豆花」は冷たい豆花か温かい豆花で値段が分かれており、そのうえトッピングはあらかじめ用意されている組み合わせから選ぶシステムとなっている(画像5)。したがって「冰霖古早味豆花」は値段の手頃さと注文のしやすさから、ガイドブック編集者や観光客から一目置かれる店のひとつとなっているのではないかと考えられる。また、深夜1時まで営業しており夜市の帰りに気軽に寄ることもできるため、現地の人々からも評価の高い店となっている[3]。こちらも原味豆花の提供は行っていなかった。

 

 
   


画像5: 「冰霖古早味豆花」のメニュー表

 

  今回訪れたガイドブックに掲載されている店舗では、いずれも原味豆花を提供していなかった。しかし表1からも分かる通り、原味豆花を食べることのできる店舗は想像よりも多い。

 

 

表1 店舗ごとの豆花の諸比較

店名 原味の有無 店名 原味の有無
騒豆花 なし 小南門傅统豆花  なし
永春 あり 豆花嫂  あり
阿鴻豆花 なし 豆花荘  なし
安東豆花 なし 杉味豆花 なし
梁記豆花 あり 豆花攤 あり
幸福七角楼 なし 榕美樹館 あり
玖公古早味豆花 あり 冰霖古早味豆花  なし
庄頭豆花担 あり 芋頭太郎  なし
純真豆花 あり[4] 黒岩黒砂糖刨冰  あり
阿明ヘ豆花 あり    

 

 

 調査結果をもとにした複数の観点から、現地の豆花の現状を分析する。

まずは原味豆花を提供している店舗数から考えられる実状についてである。今回調査対象とした19店舗の中で、原味豆花を提供している店は10店舗であった。その中でもアイスとホットの両方を提供している店は10店舗中3店舗となった。したがって、実際に原味豆花を食べることのできる店はかなりある。また、大安區で原味豆花を提供している店舗は8店舗中4店舗、大同區では11店舗中6店舗となっている。今回調査対象とした地域ではそれぞれ約半分の店舗が原味豆花を提供していた。

 次に原味豆花を販売している各店舗の値段設定から見られる状況についてである。それぞれの店が出している原味豆花の値段は40元が2店舗、45元が2店舗、50元が6店舗という結果となった。また、末尾付録の表の最低額と原味豆花の有無の欄からも分かる通り、原味豆花は各店舗の最も安い価格で販売されている。

 三つ目に、追加トッピングの観点から見受けられる現状についてである。追加のトッピングが可能な店舗は19店舗中12店舗となっており、さらに細かく見ていくと、トッピングの種類によって値段が変わる店が12店舗中7店舗、トッピングの量によって値段が変わる店が残りの5店舗となっている。さらに追加の芋頭(タロイモ)は、どの店舗でも価格が高めに設定されている。このように、追加トッピングの有無や値段設定からも各店舗の特徴が伺える。

 四つ目に、メニュー名から伺える状況である。オリジナリティのあるメニュー名で提供している店舗は19店舗中3店舗となっている。この3店舗に共通して言えることは、どの店舗よりも豆花の値段が高めに設定されているということだ。それらの商品は他の店舗では類を見ないような特徴的なものが多く揃っている。また、この3店舗では原味豆花は提供していないものの、ユニークなメニューで集客を行っていることが考えられる。

 

2.まとめ

  今回調査した店の中には、ガイドブックに記載されていた値段よりも高くなっている店も含んでいる。それらの店舗はコロナの影響を受けて値上げせざるを得ない経営状況となっていたのではないかと考えられる。しかし、現在は各店舗がさまざまな工夫を凝らすことで、バリエーション豊かな豆花達に出会うことができるようになりつつあると推測できる。今回の現地調査を通して、ガイドブックだけではわからない現在進行形の豆花の状況について知ることができた。

 

参考文献

・焦桐 2021『味の台湾』(川浩二訳) みすず書房

・白木信彦(編) 2019 『まっぷる台北』 昭文社

・谷口佳恵(編) 2015 『地球の歩き方 D10 台湾 2015~2016 年版』 ダイヤモンド・ビッグ社

・谷口佳恵(編) 2018『地球の歩き方 D10 台湾 2018~2019年版』 ダイヤモンド・ビッグ社

・谷口佳恵(編) 2020『地球の歩き方 D10 台湾 2020~2021年版』 ダイヤモンド・ビッグ社

・廣井友一(編) 2013 『ララチッタアジア台北 02 台北』 JTBパブリッシング

・廣井友一(編) 2019 『るるぶ台北‘20』 JTBパブリッシング

・K&Bパブリッシャーズ 2012 『トラベルデイズ 台湾』 昭文社

るるぶ&more「【台湾現地レポ】宜蘭発人気スイーツ店「白水豆花 台北店」が永廉街

へお引越し!」https://rurubu.jp/andmore/article/16259(2023年4月23日閲覧)

 

 

 

 

別表

店名 メニュー数(個) 追加トッピング数(種類) 最高額(元) 最低額(元) 原味豆花の有無 特徴
騒豆花 7 なし 草苺豆花 140元 騒豆花50元  なし 豆花は7種類と決まっていて、追加のトッピングは無い
永春 5 なし Q10珍珠60元 紅豆花生清豆花 50元 あり 原味の豆花をアイスとホットで提供している
阿鴻豆花 4 21 全て50元 全て50元 なし 綜合豆花に一種類トッピング追加で10元
安東豆花 6 8 花生(紅豆)豆花 60元 粉粿豆花 50元 なし 追加トッピングは、紅豆と花生のみ15元他は10元
梁記豆花 6 14 綜合豆漿豆花綜合糖水豆花65元 豆漿豆花糖水豆花50元 あり 豆漿豆花と糖水豆花は追加で2種類、綜合豆漿豆花と綜合糖水豆花は4種類のトッピングが可能
幸福七角楼 7 17 芝麻糊豆花70元 一種類トッピング50元 なし 追加トッピングは、奶油球が5元、珍珠・綠豆・薏仁・紫米・花豆・紅豆・煉乳・嫩仙草が10元、湯㘣・芋㘣・軟花生・芋頭が15元、鮮奶・濃豆漿が20元、鍚蘭奶茶醬・宇治抹茶醬が30元
玖公古早味豆花 17(夏限定1、冬限定3を含む) なし 綜合古早豆花綜合豆漿豆花薏仁湯豆花(夏限定)薑汁地瓜豆花(冬限定)綜合薑汁地瓜豆花(冬限定)65元 原味古早豆花(不加配料)花生古早豆花紅豆古早豆花綠豆古早豆花蜜豆古早豆花薏仁古早豆花芋圓古早豆花雪耳古早豆花雪蓮子古早豆花黒珍珠古早豆花豆漿豆花薑汁豆花(冬限定)50元 あり 原味の豆花を夏にアイス、冬にホットで提供している
庄頭豆花担 2 15 全て50元 全て50元 あり 何種類でもトッピングし放題(分量で調節するため)
純真豆花  11 13 芋頭豆花木耳豆花60元  清豆花45元 あり +5元で生姜汁or豆乳に変更可能中文のメニューと日本語のメニューで内容の違いがみられた。(清豆花の有無など) 
阿明ㄟ豆花  4 18 综合豆花65元 (花生、紅豆、芋頭、緑豆、麥角、粉圓、芋圆、愛玉、粉粿、鳯梨、椰果、蒟蒻、地瓜圆、小湯圆、仙草凍、米苔目、花豆/大紅豆、大麥/小薏仁) 原味豆花40元 あり 冷たい豆花は年中提供されているが、温かい豆花は冬季限定となっている
小南門傅豆花  6 なし 豆花+花生+芝麻湯圓2颗70元  豆花+花生55元  なし ネットに出回っているメニューより値段が高いため、値上げしている可能性が高い 
豆花嫂  5 なし 檸檬豆花65元 冰豆花50〜70元 あり 冰豆花はサイズによって値段が異なる 杏仁、ハトムギ、豆乳などのシロップがある
豆花荘  18 22 三式豆花75元 花生豆花紅豆豆花粉圓豆花粉粿豆花緑豆豆花大豆豆花芋圆豆花小薏仁豆花湯圆豆花麥片豆花檸檬豆花50元  なし トッピングはかき氷と共通のため、チョコレートソースやプリン(夏季限定)など、ユニークなものがいくつかあった。ただしこれらのトッピングを豆花に追加できるかは不明。
杉味豆花 5 4 两種75元 (芋頭、地瓜、蓮子、銀耳)  任選两種55元 (花生、紅豆、緑豆、蜜豆、薏仁、麥角、芋圆、脆圆、粉圓、愛玉、布丁、粉粿、杏仁凍) なし ひとつ増えるにつき+10元 ※芋頭、地瓜、蓮子、銀耳は+25元
豆花攤 6 なし 45元  45元  あり 全て45元 (花生、緑豆、粉圓、花豆、综合、清)
榕美樹館  6 13 小暑榕120元 純豆花50元  あり 2種なら70元、3種なら80元 日本語表記がやや特徴的
冰霖古早味豆花  11 あり 傅統豆花4號豆浆豆花4號65元(温) 傅統豆花1號傅統豆花2號傅統豆花3號傅統豆花5號傅統豆花任選豆浆豆花1號豆浆豆花2號豆浆豆花3號豆浆豆花任選55元(冷)  なし 通常のものと豆乳版がある。4號を除き、冷たいものは55元、温かいものは60元で統一されている。 
芋頭太郎  12 8 金牌芋頭牛奶綜合豆花宇治金時豆花野苺狂想曲豆花可可焦糖風暴豆花160元 黒糖珍珠/花生/緑豆/紅豆/芋圆豆花80元 なし とにかく高い ひとつ増えるにつき+10元、タロイモのみ+20元 
黒岩黒砂糖刨冰  4 なし 手作豆花(三様)嫩仙草奶凍60元  手作豆花手炒黒糖甜湯40元  あり トッピングの数によって値段が変動する豆乳は+5元 

 

 

[1] 文献では(焦桐.2021)原味豆花について「豆乳にでんぷんか石膏、にがりや寒天などの凝固剤を加えてかき混ぜて冷やすと完成する、とてもシンプルな台湾の伝統的なデザートである」と述べている。

[2] るるぶ&more「【台湾現地レポ】宜蘭発人気スイーツ店「白水豆花 台北店」が永廉街

へお引越し!」https://rurubu.jp/andmore/article/16259(2023年4月23日閲覧)

 

[3] 冰霖古早味豆花 「冰霖古早味豆花-甜點專賣店」https://dessert-shop-2935.business.site/ (2023年5月29日閲覧)

[4] 日本語メニューに記載は無いが、中国語表記のメニュー存在を確認できるため、ここでは原味豆花を取り扱っているものとする。