客家花布と茄芷袋からみるMITの多様化



 

内藤 彩耶 

長坂 桃子 

 

1. はじめに

 地球の歩き方(2018年度版)によると1MIT(メイドイン台湾)は数年前から台湾の若者の中でブームになっているという。特に客家花布と茄芷袋はレトロなデザインで台湾土産の定番として知られており、客家花布はかわいらしいデザインが特徴的であるため女性からの人気が高い。茄芷袋は、おでかけ用のバッグとして着目され始めたことをきっかけに観光客の中でも人気が高まり、今や台湾旅行でのマストバイアイテムにもなっている。 

 その一方で、現地で客家花布と茄芷袋に目を向けてみると、用途やデザインの点で多様化していることがわかる。以下では、その実態について報告したい。

 

2. 客家花布 

2-1 客家花布とは 

 2002年に台湾客家委員會が客家文化とイメージ向上のために台湾伝統花布を客家の花布産業として採用した。客家花布は現在、北部の客家荘のイベントで、一般的に使われている。それを通じて、「台湾伝統花布」=「客家花布」という認識が生まれた(台湾客家委員會、2011)。 

 こうして、台湾伝統花布は客家文化の代表的なイメージに変わり、文化の借用と使用を通じて再び人気のある伝統工芸になっている。ガイドブックでは台湾伝統花布ではなく、客家花布と表記されている(JTBパブリッシング2022)。台湾花布、被単布(布団カバー)、花仔布(花の布)、大紅花布(真っ赤な花布)、阿婆仔布(おばあちゃんの花布)と呼ばれるものは、全て台湾伝統花布にあたる(陳、2018)。ガイドブックでは客家花布と記述されるため、本稿ではそれにならい、以下、客家花布と呼ぶ。 

2-2 客家花布の調査 

 2023年2月22日に、迪化街の永樂市場にある台湾一大きな布地問屋街「永樂布業商場」を訪れた。1階には食品市場やレストランなどが並んでおり、2・3階には布地やボタンなどを取り扱う問屋が約200店舗立ち並び、主に客家花布やチャイナドレスの生地、それらの布で作られた雑貨などが売られている。また3階には仕立屋があり、問屋で購入した布地でオリジナルの服やバッグを作ってもらうことができる。 

 MRT(地下鉄)の北門駅から永樂市場に向かう間にも、客家花布を多く取り扱う布地専門店がある。佛坤布行、耀隆城布行、知藝服装材料などの店では、いずれも騎楼と呼ばれる半屋外の空間で客家花布の布地が売られている(画像1)。 

 

画像1:佛坤布行の客家花布

 

続いて、MRT中山駅の地下街に位置する李品製作所を訪れた。李品製作所は客家花布を使用した雑貨や小物を多く取り扱っており、手縫いのオリジナル商品が特徴である。 

 李品製作所では、キーケース(NT$120)や小物入れ(NT$150)、がま口ポーチ(NT$299)といった小物から、傘(NT$299)やワインなどのボトルに被せることができるボトルケース(NT$499)のような一風変わった商品も取り扱う。 

 李品製作所のような客家花布を専門的に取り扱う店舗以外にも、ほとんどの土産店や雑貨店が客家花布を使用した雑貨や小物を販売している。 

 中山にある雑貨店雲彩軒では、ハンカチ(NT$150)や巾着袋(NT$100)、ストラップ(NT$150)、コースター(NT$150)などが売られており(画像2)、店舗全体の商品のうち、3割ほどが客家花布に関連する商品である。 

 永康街にある土産店來好では、地下1階の一角に客家花布関連の売り場があり、キーケース(NT$180)やポケットティッシュケース(NT$150)、クリーナークロス(NT$120)などを販売している。 

 同じく永康街にある土産店Bao giftでは、ポーチ(NT$150)や巾着袋(NT$60)、トートバッグ(NT$380)、コースター(NT$150)、缶バッジ(NT$50)などが売られており、品数は多くないものの、定番の客家花布雑貨が取り扱われている。 

 

画像2:雲彩軒のハンカチ

 

上記の商品のように、客家花布自体を利用して多様化した商品だけでなく、客家花柄を活用した雑貨や小物も多く目にした。 

 先述した來好には、客家花柄を活用した商品として、付箋(NT$100)やマスキングテープ(NT$80)、クリアファイル(NT$100)などの文房具が取り扱われている(画像3)。 

 また、中正紀念堂の1階にある土産店亞熱帯では、客家花柄があしらわれた茶器がいくつも売られており(画像4)、他の雑貨屋や土産店よりも陶器類の取り扱いが多い。 

 

画像3:來好のマスキングテープ

画像4:亞熱帯の茶器 

 

 3. 茄芷袋

3-1 茄芷袋とは 

 茄芷袋という名前は「かぎ編み(ka-gi-a-mi)」と呼ばれるイグサの編み方を指す日本語に由来している。その発音から、台湾人には「ka-tsi」と呼ばれるようになった。「ka-tsi」を書式で表す際に用いられた漢字が「茭薦」や「茄芷」であり、その中でも最も一般的に使用されたものが「茄芷」だとされている(台灣烏腳病醫療紀念園區、2021)。現在では、台湾の政府と民間機関のほとんどが主な名称として「茄芷袋」を使用している(來好、2020)。 

 茄芷袋の歴史は、台南市後壁区菁寮里から始まったと言われており、台湾の元祖エコバッグとも呼ばれる(ibid.、2020)。元々はイグサで手編みされていたが、台湾の工業化に伴い、現在よく見られる三色ナイロン網布に変化した(画像5)。その理由として、プラスチック製品が大量に生産されるようになったことで、カビになりやすいイグサから、耐水性があり丈夫で持ち運びしやすいプラスチックナイロン布に変化したことが挙げられる。一般的に買い物バッグとして使用されていて、台湾社会においては生活必需品である(ibid.、2020)。 

 台湾で本土文化が重視されるようになるにつれ、茄芷袋は単なる日用品でなく、台湾の象徴になっていった(台灣烏腳病醫療紀念園區、2021)。近年はそのレトロさに注目が集まっており、人気のお土産のひとつである5茄芷袋デザインの悠遊卡(交通系ICカード)が発行された際、日本人観光客好みの商品であると紹介されるほど、特に日本人の台湾土産として茄芷袋の人気が高いようだ 

 

画像5:茄芷袋の説明文(中正紀念堂の土産店TAIWANcornerにて撮影) 

 

3-2 茄芷袋の調査 

 東呉大学に通う台湾人学生6名に茄芷袋のイメージについて尋ねた。6名の学生はいずれも20歳前後であり、女性が5名、男性が1名だ。彼女らにとっての茄芷袋の印象は、中高年層が買い物に行く際に持つものであるといい、特に迪化街で沢山売られていると教えてもらった。迪化街を訪れ、茄芷袋を使用している人を探した。 

 2023年2月22日の13時頃、北門駅に向かうMRTの電車内で茄芷袋を持った女性を見かけた。女性は30代とみられ、赤・青・緑の三色の縞模様の茄芷袋を買い物袋として使用していた(画像6)。 

 同日13時半頃からの30分間、迪化街にて通行する人々のバッグに注目したところ、40~50代とみられる女性4名と30代とみられる男性1名が茄芷袋を持ち歩いていた。女性2名と男性1名は赤・青・緑の三色の縞模様の茄芷袋を持っており、残りの女性2名は赤・黒の二色の縞模様の茄芷袋を持っていた。いずれも買い物袋として使用していた。 

 2022年2月23日の17時半頃には、嘉義駅の新幹線ホームにて、50~60代とみられる男性が茄芷袋を持っているのを見かけた。男性が持っていた茄芷袋はB5サイズほどの大きさの赤・青・緑の三色の縞模様で、サブバッグとして使用していた(画像7)。 

 2日間茄芷袋を持っている人が7人いた。このように茄芷袋は台湾で身近に使用されている。また、茄芷袋は中高年が持つというイメージがあると先述したが、実際に調査を行った2週間の間で、実際に若者が茄芷袋を持つ姿は一度も見られなかった。 

 

画像6:茄芷袋を使用する女性

画像7:茄芷袋を使用する男性 

 

 さらに、迪化街にて茄芷袋が販売されていた髙建、竹木造咖、勝隆行、林豊益商行という4店舗を訪れ茄芷袋を比較したところ、それぞれの店舗で異なる特徴がみられた。 

 髙建は、4店舗の中で茄芷袋の品数が最も多く、大きさもA5サイズほどの小さなものからB3サイズほどの大きなものまで幅広く売られている(画像8)。竹木造咖は、全ての茄芷袋に自社のタグが付いており、自社オリジナル商品が特徴的である。勝隆行は、4店舗の中で唯一の土産店であり、他店と比較すると品数は少ないが、赤・黒の二色の縞模様の茄芷袋が多く取り扱われている(画像9)。林豊益商行は、竹製品の専門店のため、茄芷袋の品数は少なく、取り扱っている柄は赤・青・緑の三色縞模様、赤・黒の二色縞模様、白・黒の二色縞模様の3種類ある(表1)。 

 このように、茄芷袋は多様な柄とサイズの種類が生産され、日常的に市民が愛用していることが分かった。また、最も一般的な柄は赤・青・緑の三色縞模様、続いて赤・黒の二色縞模様だと言える。 

 

画像8:髙建の茄芷袋

画像9:勝隆行の茄芷袋

 

表1:各店舗の特徴 

店名 

特徴 

髙建 

サイズ、柄の種類ともに多い 

竹木造咖 

自社オリジナル商品 

勝隆行 

柄の種類が多く、品数が少ない、唯一の土産専門店 

林豊益商行 

柄の種類、品数ともに少ない 

 

 客家花布と同様に、茄芷袋も素材やデザインを活用した雑貨や小物が多く売られている。以下では、ナイロン網布素材を活用したものと、縞模様のデザインを活用したものに分け、茄芷袋を活用した商品が最も豊富に売られていた來好の商品を取りあげ、その特徴について述べる。 

 はじめに、茄芷袋のナイロン網布素材を活用した商品については、赤・青・緑の三色の縞模様のナイロン網布素材を活用した商品として、リュック(NT$1760)、水筒バッグ(NT$230)、ペンケース(NT$250)などがあげられる(画像10)。また、赤・青・緑の三色の縞模様ではないため、デザインは茄芷袋とは異なるが、フラワー漁師網バッグ(NT$690)、化粧ポーチ(NT$490)、三角コインケース(NT$290)など、ナイロン網布素材を活用した商品も多く見られる(画像11)。 

 ナイロン網布素材は撥水性が高く、手軽に洗うことができるため、汚れやすいペンケースや化粧ポーチなどに活用されると予想できる。 

 

画像10:ペンケース 

画像11:化粧ポーチ

 

 次に、茄芷袋の最も一般的な柄である赤・青・緑の三色の縞模様のデザインを活用した商品は、來好では「漁師網柄」という名前でまとめられている。これらの商品については、革製バッグ(NT$6680)やトートバッグ(NT$1240)、巾着袋(NT$310)、化粧ポーチ(NT$390)、吸水コースター(NT$150)やノート(NT$120)、A5クリアファイル(NT$80)、えんぴつ(NT$99)など、様々な種類の商品がある(画像12)。また、赤・青・緑の三色の縞模様ではないが、黄・緑・赤の三色の縞模様と藍・白の格子柄のマスク収納ケース(NT$80)も、「漁師網柄シリーズ」のひとつとして売られている(画像13)。 

 

画像12:吸水コースター 

画像13:マスク収納ケース 

 

4. まとめ 

 客家花布と茄芷袋は実際に台湾の人々にとって身近なものとして日常的に使用されており、茄芷袋はその物持ちの良さと耐水性から、バッグだけではなく、筆箱や化粧ポーチなどの用途がある。また茄芷袋特有の三色模様に注目した鉛筆、ファイルなども販売されている。客家花布は華やかな布地を利用した生活雑貨が多くあるだけでなく、そのデザインのみを活用した文房具や茶器も見られる。 

 土産として売られている多様化した商品は、どちらも特徴的な柄や素材を活かして、より日常的に利用しやすいものへ進化していることが分かる。 

 

参考資料 

JTBパブリッシング旅行ガイドブック(編)2022『るるぶ 台北’23』JTBパブリッシング 

内藤哲宏台北 台湾 街に生きる レトロ建築( 2011年12月2日)」中日新聞・東京新聞記事データベース 2023年4月17日閲覧

「台湾まるごとガイド」(https://jp.taiwan.net.tw/att/files/TaiwanMarugotoGaido2023.0302.pdf )『交通部観光局-台湾観光情報ネット』 2023年4月17日閲覧 

UNFCCC締結国会議、トラムのラッピング広告で台湾アピール - 台北駐日経済文化代表処 Taipei Economic and Cultural Representative Office in Japan 2023年4月17日閲覧

〝客家花布〞?〝臺灣花布〞?的設計文化現象研究 | 客家委員會全球資訊網 2023年4月18日閲覧 

茄芷袋怎麼來?三分鐘搞懂台灣茄芷袋由來| 來好台灣選物『來好』2023年4月17日閲覧 

台灣烏腳病醫療紀念園區 - 【茄芷袋的前世今生】 #買不起LV沒關係 #我們有台灣LV...2023年6月26日閲覧