台湾におけるMITのイメージ

 

1.はじめに

 日本の旅行ガイドブックでは、台湾製の物品が「MIT」(made in Taiwanの略)と形容されることが珍しくない。しかしその一方で、台湾人と話していると、はたして「MIT」という呼び方が一般的なものとなっているのかというと、疑問に思わざるをえないこともある。

 そこで、フィールドワークでは、現地の人たちのMITに対するイメージを知るための調査をこなった。

 

2.MITに対するイメージについての調査

2-1 東呉大学生に対する聞き取り

 まず、現地滞在期間中の2月15日に行われた東呉大学生との交流の際に、MITに対してどのようなイメージを持っているのかについて10人の学生(そのうち1名はマレーシアからの留学生)を対象に聞き取り調査を行った。その結果多かったのは、MITに対するイメージが具体的な製品や物というよりも、安全や信頼といった台湾製に対する意識だという意見である。

 具体的な製品で何か思い浮かぶものがあるかという追加の質問に対しては、少し悩んだ上で、コンピューター製品や電気鍋、茄芷袋があげられた。Made in Taiwanといえば、どのような製品を購入するべきかと聞けば、ある学生は茄芷袋が良いだろうと答えた。一方で他の学生は、特に何もこれといったものは思いつかないと答えた。

 

2-2 商業施設での聞き取り

 より多くの意見を求め、2月22日、松山文創園区*1付近にて聞き取り調査を行った。質問内容は、以下の通りである。((1)から(3)は選択式で回答を得た。)

 

  • 年代

  • 性別

  • 国籍

  • MIT(Made in Taiwan)に対して:どのようなイメージを持っているか・具体的に思いつく製品はあるかについての問い

 

 ここでは20代~60代の男女計23名に対して口頭での調査を行った。国籍で台湾を回答した人の結果は表1、台湾以外を回答した人の結果は表2の通りである。

 台湾人からの回答には、安心できる、言葉の意味通り台湾のものというイメージが多いほか、具体的な物は何も思い浮かばない、頭の中ではイメージできるが言葉にすることが難しいという回答も目立った。具体的な製品名については思いつかない人が少なくはなかった。またMITに対してどのようなイメージを持っていますかと最初に聞いた際に、MITが何のことか分からないという人もいたが、Made in Taiwanと付け加えると理解していた。

 国籍に台湾以外を回答した人からは、台湾人の回答に比べ具体的な製品の回答が目立った。また台湾人と同様、中にはMITと聞いただけでは何のことか分からないという人もいた。

表1:MITに対するイメージについての聞き取り調査の結果(台湾)(2023/2/22)

 

年代

性別

MIT(Made in Taiwan)に対するイメージ

 

1

20代

女性

人情味がある、優しい印象

 

2

20代

女性

品質が保証されている。国家が認定しているため、安心安全という印象を受ける。

 

3

20代

女性

台湾が発展していることを表す象徴である。

 

4

20代

女性

イメージも具体的な製品も何も思い浮かばない。

 

5

60代

女性

台湾で作られたもの。(言葉そのままの意味)日常的に身近に感じられる。

 

6

60代

女性

中国製品よりも良いというイメージ服やお土産、手作り製品(ハンドクラフト)などを思い浮かべる。

 

7

50代

男性

自分の国のもの。親しみやすいという印象。

 

8

60代

男性

台湾で製造されたもの。言葉の意味通り。

 

9

60代

女性

台湾のもの。

10

60代

女性

台湾で作られたもの。

11

40代

男性

頭の中でイメージはできるが、上手く言葉にすることができない。

12

20代

男性

言葉の通り、台湾で作られたものを指すと思う。具体的な物は何も思い浮かばない。

13

40代

男性

安心できる。

14

20代

女性

台湾で有名なもの。電子部品

15

20代

女性

台湾の伝統的な物、製品。

表2:MITに対するイメージについての聞き取り調査の結果(台湾以外)(2023/2/22)

 

年代

性別

国籍

MIT(Made in Taiwan)に対するイメージ

1

20代

男性

アメリ

特になし

2

20代

男性

アメリ

衣服

3

30代

男性

アメリ

Made in Chinaとの違いを区別するもの

4

40代

女性

香港

食べ物を最初にイメージする。それ以外の物だと、アイデアがある製品。

5

30代

女性

香港

コスメを最初に思い浮かべる。台湾のコスメが好き。その他だと職人さんが作った物のイメージ。

6

30代

女性

オーストラリア

地元の食べ物、夜市の食べ物

7

60代

女性

オーストラリア

地元の食べ物。火鍋。

8

40代

女性

オーストラリア

台湾で作られたもの。スキンケアや化粧品などが最初に思いつく。

2-3 台湾人留学生に対する聞き取り

 調査1・2の結果を示した上で、6月14日に台湾人の留学生であるAさんに話を聞いた。

Q1.

MITは何の略語であるか知っているか。聞き馴染みはあるか。

 

もちろん知っている。台湾人はよくMITと言う言葉を使う。

Q2.

MITと聞くと、どのようなイメージを思い浮かべるか。また、具体的に思いつく製品は何かあるか。

 

Made in Taiwanというただの台湾製のことを指すだけで、品質が良い、安心だという印象は受けるが、具体的な製品名は答えにくい。

Q3.

日本のガイドブックには、MIT雑貨が取り上げられていることが多く、中でも茄芷袋や客家花柄について取り上げられていることが多いが、これらの製品を知っているか。(茄芷袋は文字を見ても何のことか分からないとのことで画像を提示した。)

 

(まず、MIT雑貨が取り上げられているということに驚いた上で)客家花柄はどんな柄か分かる。この柄は生活しているとよく見るし、布団の柄や、ポーチの柄によくある。茄芷袋について、この柄は確かに知っているが、茄芷袋自体を使っている人を私はほとんど見たことがない。田舎だとよく見かけるかもしれない。この柄が施された製品があることは知っているが、使っている人は周りで見たことがない。この柄のテーブルクロスは見たことがある。若者はこの柄の製品を使う人はいないと思う。茄芷袋の柄が施された筆箱やポーチなどは、売られていることは知っているが完全に観光客に向けた製品という印象がある。観光客向けという意味ではガイドブックで取り上げられているのもよく分かるが、実際に台湾人はこの柄の製品をよく使っている訳ではない。

Q4.

東呉大学生との交流の際、Made in Taiwanといえば、どのような製品を購入するべきかと聞けば、茄芷袋が良いだろうという答えが出たがそう思うか。

 

そのような答えが出たことに驚いた。彼らはこの柄の製品を使っていないと思う。

Q5.

東呉大学生への聞き取り調査の中で、MITの具体的な製品として電気鍋があげられたが、これは台湾でよく使われているか。

 

この鍋は、本当に台湾でよく使われている。台湾人はみんな持っているし、毎日使っていると言っても良いと思う。台湾に来ていた知り合いの日本人留学生は、台湾でこの電気鍋を買って使っていた。

Q6.

普段生活している中で、台湾製を意識するのはどういう時か。

 

普段はあまりこの製品がどこの製品かというのは、私は気にならない。食品だったら、外国で動物の病気が流行したときは少し気になるかもしれない。

Q7.

MITに対するイメージ調査2の中で、中国製品との比較という回答があったが、海外製品に対するイメージはどうか・

 

海外製品に対して、特に悪い印象がない。私はそうであるが、気にする人もいるかもいれない。台湾人は日本製品が好きで、日本製か台湾製かで迷う人も多い。

 MITに対するイメージ調査2を終えた時点では、台湾人は台湾製に対してのこだわりを持っているように思えたが、留学生Aさんとの話の中では、そのようなこだわりはあまり感じられなかった。

 

3.まとめ

 台湾を訪れる前に得ていたMITに関しての情報は、雑貨やお土産といった製品に対するものであった。しかしそれらはあくまでも旅行者向けの情報であり、現地での2つの聞き取り調査と、台湾人留学生への聞き取りから、台湾現地の人はMITに対して具体的な製品の印象を持っているのではなく、安全や安心、信頼といった、あくまでも品質を保証するようなイメージしか持っていないことが分かった。

 また台湾では画像1・2のように、製品表記において他国製のものに対しても、デザインは台湾で台湾人が行ったと主張するように表記されていることや、画像3のようにデザインも原産地も両方台湾であると表記されていることがあった。これらは聞き取り調査で分かった台湾で持たれているMITへの安心や安全、信頼といったイメージと大きく関わっていると考えられる。

 

 謝辞:調査2の実施にあたり、渡邊先生に通訳としてご協力頂いた。

 

画像1:マスコットの製品表記



画像2:ポーチの製品表記

画像3:スマホケースの製品表記

 

参考資料

朝日新聞出版(編) 2017『ハレ旅 台北朝日新聞出版

 

*1:1937年に建設されたタバコ工場跡地をリノベーションした商業施設。デザイン系ミュージアムやカフェ、雑貨店が並び、展覧会などの芸術活動も行われている。(廣井、 2019)